千駄ヶ谷には1人で
7年ほど前、北海道に住んでいる友人と2人で東京に住んでいる大学時代の友人に会いに行った。
3泊4日での旅行の内2泊は友人の家に泊まらせてもらうことになった。最後の1泊は空港の近くのホテルに泊まろうと、調べてみると千駄ヶ谷のあるホテルがとても安くなっていたので、そこに泊まる事にした。
日中は東京の友人と神保町の古本屋に行ったり、ボンディでインドカレーを食べたり、代官山の蔦屋書店に行ったりなどした。千駄ヶ谷の駅に着いたのは夜の11時で、2人ともくたくたになっていた。
千駄ヶ谷の駅を出ると、今までいた場所とは少し雰囲気が違い、街灯がちらほらと静かで人通りも少なく、日中のほてりをいっきに冷ましてくれた。
思ったよりも随分と古いホテルだった。ロビーは暗く、ぼんやりと照らされたフロントには若めの男性スタッフが2人。
エレベーターに乗り込むと、友人が「部屋まで案内してくれないんだね」と期待していた感じと違ったようで、ぶつぶつと文句を言っていた。
ボタンを見ると3階に赤いテープが貼られており、「3階には止まりません」と小さな貼り紙があった。
9階のボタンを押した。
エレベーターが動き出した。
友人「?」
1階に泊まり、ドアが開いた
真っ暗だ
友人「なんで?」
自分「押し間違えたかな?」
見ると確かに9階のボタンが光っている。
2階でも同じようにドアが開いた
真っ暗だ
友人が怯え出したのでなだめる
3階でも同じようにドアが開いた
今後は目の前が木の板でふさがれていた。
友人の恐怖がピークに達したようで
「もーやだーぁ!」とわめき泣き出した。
その姿に私もすこし動揺したが、なぜか笑いがこみ上げてきて笑ってしまう
それは9階まで続いた。
何故か開いたその先はすべて真っ暗だった。
9階の廊下は薄ぼんやりと明かりが付いていた。
友人は泣きながら
「フロントに電話してみる」と
部屋に着くなり受話器をとった。
きっと、一時的に全部ドアが開く仕様になっているんだろうと思った。
電話を切った友人が青ざめた顔で
「フロントに聞いたら、そんなはずはないって言われた…」と言った。
部屋は全体的に薄暗く、小さなブラウン管のテレビがひとつ、つけてみると電波が悪いのかノイズが入る。
部屋の中の空気は、気のせいか張りつめていた。
とりあえず休もうとベッドに横たわって天井を見ると換気口に吸い込まれるような形の、煤のような汚れがあった。
友人は「怖くて眠れない…私より先に寝ないでね」と、両手に手袋をはめ、顔に枕を押し当てて寝た。(夜中に顔を掻いてしまうらしい)
眠れなかった。
1時間ほどすると
「ギリッギリッ、ギリッギリッ」と何かをひき潰すような音が聞こえてきた。
友人の歯ぎしりだった。
その後に
「ガサッガサガサガサッ」と掻き毟るような音。
横をみると、友人が顔に押し当てた枕の上から顔を掻き毟りながら歯ぎしりをしていた。
「ギリッギリッガサッガサガサガサ」
「ギリッギリッガサッガサガサガサ」
エクソシストか。
結局、朝まで眠れなかった
朝、大浴場があったので入ることにした。なぜか鏡が全て外されていた。
朝の千駄ヶ谷は薄曇りで、会社に向かう人で溢れていた。それに逆流して駅へ向かった。
帰りのバスの中でふと友人が「実は、黙ってたんだけど、最近金縛りがひどくてさ…私のせいかも」と言っていた。
次回、千駄ヶ谷には1人で行こうと決めた。